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アウトバーン52号線建設とグラートベックの住民投票

 小平市で、幹線道路の建設をめぐり、東京都初の住民の直接請求に基づく住民投票が実施されてから、ほぼ1ヶ月が経過した。投票率が50%未満であれば成立しないという条件が追加されたため、開票もされないまま投票用紙が処分されてしまうかもしれない状況にある。幹線道路の建設は環境問題と交通問題に関係し、利害関係が複雑である。先日紹介した「エッセンを南北に結ぶアウトバーン52号線が断念か」も、高速道路建設をめぐる紛争のひとつである。

 では、ドイツで道路建設を争って住民投票が行われた事例はないのだろうか。このブログが扱っている6都市にはないが、エッセン市の北に隣接するグラートベック市では、昨年、アウトバーン52号線の整備が住民投票の対象となった。そこで、その背景と、投票結果を説明しよう。

ピンク色が既存のアウトバーンを、赤色が52号線を示す。点線は、計画中の路線を示す。
 右の図が、エッセン周辺のアウトバーン網である。ピンク色で示した既存のアウトバーンを見ると、東西方向は、南北10キロ前後の範囲に、北から2号線、42号線、40号線と、アウトバーンが3本も通っている。その一方で、南北方向は、ボーフム市東部の43号線から、デュイスブルク市とオーバーハウゼン・ミュルハイム両市の境界近くを走る3号線まで、約30キロの区間にアウトバーンがない。こうして、52号線を主体として、ルール地方中央部を南北に結ぶアウトバーンが計画された。

 52号線は、南東からミュルハイムを通ってエッセンに入り、市の中央部で40号線にたどり着く。さらに、エッセンの北に接するゲルゼンキルヘン市には、北から52号線が来ている。そこで、まず分断されている52号線を、赤い点線のようにエッセン中央部の40号線から、ゲルゼンキルヘンまで伸ばしてつなぐ。さらに、エッセンの南に伸びてきている44号線を北に伸ばして52号線と結ぶ(青い点線)。すると、ルール地方中央部を南北に結ぶアウトバーンが完成する。

 このためには、52号線を、エッセン、ボトロップ、そしてグラートベックと北へ延長して、ゲルゼンキルヘンで既存の52号線につなぐ必要がある。このうち、エッセン北部の42号線から北は、すでに現在、連邦道路224号線として結ばれているので、224号線を拡幅し、交差点をインターに整備すれば、アウトバーン52号線が完成する。しかし、既存の224号線の騒音や排気ガスに悩まされている住民は、アウトバーン格上げに反対である。そこで、アウトバーンへの格上げに際し、グラートベックの市街地を走る1.5キロ区間を地下化する計画がまとめられた。

 地下化計画の最大の問題は、巨額の工事費用である。2011年の末に、工事費用の89%強を連邦、9%を州、残る2%弱をグラートベック市が分担し、地下化を行うことで話がまとまった。この案を「歴史的なチャンス」と喜ぶグラートベック市長は、決定を「住民投票」という形で市民に委ねることを提案した。市議会も、本来は議会に属す権限を、市民の投票に委ねることに賛成した。この時点では、市長も市議会も、「市民は、不快な連邦道路224号線を、アウトバーン地下トンネルに交換することに賛成するはずだ」、と確信していた。

 しかし、2012年3月25日の住民投票で、市民はアウトバーンを拒否した。投票率は39.99%で、そのうち反対が55.88%(有権者の22.3%)、賛成が44.12%であった。ドイツでは、投票ボイコットを招く恐れのある「投票率」ではなく、賛成、あるいは反対が有権者の何パーセントか(絶対得票率)が成立要件となる。ノルトライン・ヴェストファーレン州では、この成立要件が、近年に緩和されている。市町村レベルの住民投票制度が導入された1994年には「有権者の25%」が必要だったが、2000年に「有権者の20%」となった。さらに2011年には、大規模な都市では住民投票の成立が困難なことに配慮し、「人口5万人以上は有権者の15%、10万人以上は10%」とされた。グラートベック市の人口は7万人強で、有権者の22.3%を得たアウトバーン反対派の明確な勝利で幕が下りた。
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| アウトバーンや交通規制 | 08:45 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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エッセンを南北に結ぶアウトバーン52号線が断念か

 オランダ国境からルール地方北部まで結ぶ予定の高速道路アウトバーン52号線は、現在、3つの断片で構成されている。この断片が完全に結ばれることは、ないかもしれない。この7月8日に、エッセン市内の未着工部分に関し、州の交通大臣が「次期の連邦交通道計画に登録しない」と発表したからである。これを受け、喜ぶ者、残念がる者、悲喜こもごもである。そこで、これまでの経過を簡単に振り返りたい。

 52号線のエッセン市の部分は、1960年代に、ルール地方の中央部を南北に結ぶアウトバーンとして考えられた。ルートの概要は1978年に決められ、1985年の連邦交通道計画に優先区間として登録された後、1988年から具体的な路線確定作業が開始した。

 しかしこの頃から、道路公害を恐れる住民の反対運動が強くなり、次第に計画に影響するようになってきた。変化の影響を最も受けた政党が、ルール地方で伝統的に強い勢力を有するSPD(ドイツ社会民主党)である。1997年に、それまで52号線整備に賛成していたSPD内部で、反対の声が出て来る。翌1998年に、SPDはエッセン市内の大半を地下道路にすることを求め、市議会も認めた。

 アウトバーンの計画を中心となって進めるのは、州である。そのノルトライン・ヴェストファーレン州では、SPDを中心とした政権が続いていたが、2005年に一旦CDU(キリスト教民主同盟)を中心とする政権へ交代した。次の2010年選挙で誕生したのが、州初の女性首相クラフトである。SPDと緑の党で構成される新政府は、従来の政策を見直し、2011年に「これ以上52号線の計画を進めない」と宣言した。理由は、財源がないことである。52号線のエッセン市区間は、連邦交通道計画に含まれていたものの、連邦が想定していた予算は工事見積もり額の1割強に過ぎず、このままでは州が9割近くを負担する必要があった。州にはそのような財源はなく、「建設の見通しがない道路を計画するために費用を使うことはできない」と説明された。費用が高額になった背景には、地下道路がある。

 そして今回、州の交通大臣が、同じく財源確保の見通しが全くないことを理由に、次期の連邦交通道計画に登録しないと発表したわけである。ただ、かつての議決が残っているため、これで建設が完全に消えるわけではないそうだ。あくまでも「当面の方針」である。

 ところで、52号線の整備が予定されているエッセン市北部には、交通に関し、もうひとつ悩ましい問題がある。それは、「浮遊粒子状物質(PM)」の濃度が、欧州連合の許容範囲を越えていることで、主因はトラック交通にある。対策を求められた州と市は、一部で大型トラックを迂回させている。アウトバーン52号線の建設を含め、いろいろ対策を検討したが、公害が別の場所に移るだけで、有効な対策は未だに見出せていない。

 アウトバーン52号線も問題だが、当面はこの公害問題の方が重要かもしれない。何かいい方法はないものだろうか・・・

| アウトバーンや交通規制 | 08:34 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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ショッピングセンターは信号機の維持費用も提供せよ

 大型店の問題では、日本とドイツで異なる点がいろいろある。大きな違いはともかく、「こういう点も違う」というポイントを、実例で紹介したい。

 日本でも、大型店の進出が問題となり、「大店立地法」という法律ができた。かなり前になるが、私はその委員を務めた経験がある。問題点のひとつが、大型店に出入りする交通の処理で、出入りの際に右折する車が多いと、交通の障害としてどうしても問題になる。そこで、「周囲の道路を迂回し、左折で進入する」ように計画を作成するケースもいくつかあった。出入口に信号機を設置する方法も考えられるが、「信号機は警察が状況を判断して設置するものであり、大型店進出と直接的な関係にはない」とされていた記憶がある。おそらく、信号へのこのような考え方は、現在も変わっていないだろうと思う。

フローリンダー通り沿いのショッピングセンター入口に設置された信号機。道路を横断する方向が青信号で、横断中の人や、センターから出て来る車が見える。(2008年)
 ドイツでは状況が異なり、大型店を建設するデベロッパーに信号機の設置を求めるケースが見られる。ドルトムント西部のフローリンダー通り沿いのショッピングセンターもそのひとつで、地区の中心となっている交差点から約130メートル離れた位置に出入り口が設置され、そこに信号機を新設して対処することになった。なお、このショッピングセンターは売場面積1500平米の総合食料品店を核とし、全体で3000平米前後の規模で、160台の駐車場を有する。既存の地区中心地のすぐそばにこのような用地を確保できたのは、小学校を閉校し、その跡地を活用した結果である、地区内に4つある小学校のうち、生徒数減少で1つを閉校にする予定だったので、地区中心地近くに近隣供給の場を設置できる小学校に白羽の矢が立った。学校跡地の売却先は、公募で決定されている。

 こうして2008年にショッピングセンターがオープンした。信号機の設置費用はセンターのデベロッパーが提供したが、問題は維持費用で、デベロッパーが支払いを拒否したため、市が裁判に訴えていた。そして、先日、一審の判決が示された:センターが維持費用も支払わねばならない。このような判決が示されたのは、道路法に、通例よりも費用をかけて整備されねばならなかった場合は、その原因者が費用を負担するという「原因者負担」の原則が定められているためである。

 では、これで紛争は終わりだろうか。デベロッパー側が控訴すれば、裁判は続く。また、判決は支払いを求めただけで、いくら支払うかは示していないため、金額が紛争になる恐れもある。ドルトムント市は、25年間の維持費用として8万4500ユーロ以上を請求する予定だが、全く支払おうとしなかったデベロッパーが素直に従うとは限らない。今後も両者の駆け引きが続きそうな予感がする。

| 中心市街地や近隣供給 | 08:14 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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