英のEU離脱公約の「うそ」とドイツの住民投票
1週間前にイギリスで行われたEU離脱を問う国民投票は、結果が確定した後に、投票で勝利した離脱派が「公約」を覆す発言を行った結果、離脱に投票した国民が「投票を後悔する」という展開が生まれてきている。確かに、直接民主制には、ポピュリズム(大衆迎合主義)に陥る危険性がある。これまで、ドイツの住民投票を追ってきた私も、「あの時の住民投票は・・・」と疑問を感じたことがあるので、紹介してみたい。
この「ルール地方よもやま通信」には、住民投票の実例を3つ紹介している。新しい方から順に述べると、電車の路線延長を争うオーバーハウゼンの住民投票(2015年3月8日)、エッセンの見本市会場建物整備を巡るもの(2014年1月19日)、そしてエッセンの北に隣接するグラートベックのアウトバーン整備に関するもの(2012年3月25日)、である。3件とも、プロジェクトに反対する側の勝利で終わっている。背景には、住民投票が大規模な都市でも成立しやすくしようと、2011年に州が成立要件を緩和したという事情もある。
この3件のうち、エッセンの見本市会場整備では、投票後に一部の市民から疑問の声が出された。争われたのは、1億2300万ユーロの費用がかかる建物整備である。エッセンの見本市会場建物が時代に合わず、改造が必要なことは事実なので、住民投票後に「基礎的改造」と銘打った新たな案が作成され、住民投票で改造反対派を率いた政党も賛成している。その「基礎的改造」の費用は、建物が5670万ユーロと、当初計画の46%に収まっている。ただ、建設工事にはリスクが付きものとして、土壌汚染対策や工事費の値上がり等が見込まれており、これを追加すると最高8860万ユーロと、当初計画の72%に達する。改造反対に投票した市民の中には、1億2300万ユーロが全て不要になると思っていた者もいたようである。争ったのは1億2300万ユーロの3割弱だったわけで、投票時にこの点がわかっていたら、どのような結果になったのだろうか。
だが、私が最も問題だと感じている住民投票は、南ドイツのウルム市で、LRT路線の延長を巡って1999年7月11日に行われたものである。市長が提案した連邦補助を活用した路線拡張案に対し、バスの方が費用が少なくて済むとして、投票が近づくと、反対派は補助をバス路線のためにあてるべきだという主張を強めた。確かに、補助に関する法律を見ると、バス関連も対象となっている。しかし、投票終了後に補助について問い合わせた結果、確かに法的にはバスも補助対象であるが、連邦と州の補助プログラムではバス関連の投資は僅かしか予定がなく、ウルムの求めに応じる余地はないと回答があった。
路線拡張を提案したウルム市長は、「市民の意思を尊重する」と表明し、拡張案を封印した。バス活用を主張したグループは、住民投票の3ヶ月後に行われた市議会選挙でも、議席を少し伸ばした。さらに2ヶ月後の12月に行われた市長選挙には、バス活用を中心とした公約を掲げた候補が、自信をもって前市長に挑んだ。ところが、前市長が、投票の8割と予想を超える大量得票を獲得し、再選されている。
幸い、ルール地方の住民投票には、まだウルムのような例はない。逆に、市の権力構造が、住民投票を契機に変化したケースもある。オーバーハウゼンでは、路線延長反対の先頭に立っていた対立党の代表が新市長に選ばれた。エッセンでも、見本市会場整備を進めていた市長は、次の選挙で落選している。もし現在、イギリスで総選挙を行ったら、一体どのような結果になるのだろうか。
この「ルール地方よもやま通信」には、住民投票の実例を3つ紹介している。新しい方から順に述べると、電車の路線延長を争うオーバーハウゼンの住民投票(2015年3月8日)、エッセンの見本市会場建物整備を巡るもの(2014年1月19日)、そしてエッセンの北に隣接するグラートベックのアウトバーン整備に関するもの(2012年3月25日)、である。3件とも、プロジェクトに反対する側の勝利で終わっている。背景には、住民投票が大規模な都市でも成立しやすくしようと、2011年に州が成立要件を緩和したという事情もある。
この3件のうち、エッセンの見本市会場整備では、投票後に一部の市民から疑問の声が出された。争われたのは、1億2300万ユーロの費用がかかる建物整備である。エッセンの見本市会場建物が時代に合わず、改造が必要なことは事実なので、住民投票後に「基礎的改造」と銘打った新たな案が作成され、住民投票で改造反対派を率いた政党も賛成している。その「基礎的改造」の費用は、建物が5670万ユーロと、当初計画の46%に収まっている。ただ、建設工事にはリスクが付きものとして、土壌汚染対策や工事費の値上がり等が見込まれており、これを追加すると最高8860万ユーロと、当初計画の72%に達する。改造反対に投票した市民の中には、1億2300万ユーロが全て不要になると思っていた者もいたようである。争ったのは1億2300万ユーロの3割弱だったわけで、投票時にこの点がわかっていたら、どのような結果になったのだろうか。
だが、私が最も問題だと感じている住民投票は、南ドイツのウルム市で、LRT路線の延長を巡って1999年7月11日に行われたものである。市長が提案した連邦補助を活用した路線拡張案に対し、バスの方が費用が少なくて済むとして、投票が近づくと、反対派は補助をバス路線のためにあてるべきだという主張を強めた。確かに、補助に関する法律を見ると、バス関連も対象となっている。しかし、投票終了後に補助について問い合わせた結果、確かに法的にはバスも補助対象であるが、連邦と州の補助プログラムではバス関連の投資は僅かしか予定がなく、ウルムの求めに応じる余地はないと回答があった。
路線拡張を提案したウルム市長は、「市民の意思を尊重する」と表明し、拡張案を封印した。バス活用を主張したグループは、住民投票の3ヶ月後に行われた市議会選挙でも、議席を少し伸ばした。さらに2ヶ月後の12月に行われた市長選挙には、バス活用を中心とした公約を掲げた候補が、自信をもって前市長に挑んだ。ところが、前市長が、投票の8割と予想を超える大量得票を獲得し、再選されている。
幸い、ルール地方の住民投票には、まだウルムのような例はない。逆に、市の権力構造が、住民投票を契機に変化したケースもある。オーバーハウゼンでは、路線延長反対の先頭に立っていた対立党の代表が新市長に選ばれた。エッセンでも、見本市会場整備を進めていた市長は、次の選挙で落選している。もし現在、イギリスで総選挙を行ったら、一体どのような結果になるのだろうか。
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