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議会の高い地位 : ドイツ自治体が伏魔殿と無縁な理由

 先月末、豊洲新市場の問題に関連して、元都知事の石原慎太郎氏が、「都庁は伏魔殿」だと話していた。たしかに、組織が巨大になると風通しが悪くなりがちである。だが、ドイツの自治体政治は外から見ていてわかりやすく、伏魔殿と縁がないように見える。日本とドイツの違いは、どこに原因があるのだろうか。

 今日は、宮城県の長沼ボート場を視察した小池新知事が、インタビューに答え、都知事として「東京都としての選択をしっかりと定めていきたいと思っています」と話していた。これを聞き、先日から考えていた「日本の地方議会は追求の場、ドイツは決定の場」という差の原因が、わかったような気がした。すでに会期が終わった東京都議会は、ボート会場の決定に指一本触れることができない - だから、後で追及することになるのだろう。ドイツでは議会で議論して議決する事項が、日本では行政内部で決定されており、「議会の役割がまるで違う」のだ。

使用されなくなった教会を取り込み、完成が近づいているボーフム音楽センター。(2016年撮影)
 私が追跡している「よもやま通信6都市」でも、建築をめぐっていろいろ対立があり、マスコミをにぎわせている。そこで、両国の違いを具体的に知りたいと思い、少し前から、ボーフム都心の教会を包含して建てられる音楽センターの決定までの過程を調べている。10年以上にわたって市の懸案として報道され、その間に、市議会で何回も取りあげられている - もちろん、日本の地方議会で見られる代表質問や一般質問のような「追及」ではない。教会の取り壊しを認めるのか、買い取るのか、そして室内楽ホールに改造するのか、さらにはコンサートホールと統合して音楽センターにするのかと、何回も行政が市議会に案を提出し、議会で議論され、ボーフム市としての「決定」が行われている。いずれ整理して、ホームページで「ボーフム音楽センターが建設されるまで」を紹介したいと考えている。

 マスコミが報道し、議会でも取りあげられた東京都の豊洲新市場やオリンピック会場の問題も、小池氏の発言のように「東京都としての選択」である。しかし、ドイツと違い、議会ではなく、都知事を頂点とする行政が決めてきている。この原因を知りたいと思って地方自治に関する法律を眺めた結果、日本とドイツにおける「地方議会の権限」の違いを確認できた。なお、連邦制のドイツでは、地方自治法を定めるのは州であるため、州によって違いがある。ここではよもやま通信6都市が所属するノルトライン・ヴェストファーレン州(以下「NRW州」と書く)の自治体法を検討する。

 まず日本である。ここに「法令データ提供システム」が提供している「地方自治法」がある。議会の権限は、「第二編 普通地方公共団体」の「第六章 議会」、「第二節 権限」にある。第九十六条が、議会の議決が必要な事項を15項目列挙している。中味を見ると、条例、予算や財産に関する事項が中心で、公共施設の移転で議決が必要になることはほとんどないと考えられる。続く第2項が、これ以外の事項についても条例を定めることで議決を義務づけることができると定めているが、いずれにせよ、日本では「議会の権限が限定されている」わけである。とくに、豊洲や築地のように影響が大きい施設について行政内部で決定できることは、重要な公共施設の建設をめぐる対立が住民投票になることもあるドイツと、まるで逆である。

 ドイツの自治体法は、これとは全く異なる。NRW州自治体法第41条は「議会の権限」として、まず「自治体の議会は、この法律が別の定めを置かない限り、自治体行政の全ての事項に関して権限を有す」と定めている。もちろん、細かい点すべてを議会が扱うことはできないので、第2項が、特定の事項を委員会や市長に委ねることができると規定し、第3項は、議会の名で、日常の行政を市長に委ねている。なお、第1項は、委任できない事項を20項目列挙している。そして、第62条が、市長に、市議会が扱う事項の準備を行うことを求めている。

 どうやら、ドイツと日本の地方議会の権限には、月とスッポンほどの違いがあるようだ。ドイツではまず「議会」があり、市長をトップとする行政は、議会から委託を受けて仕事を行う。だから、議会は日本より頻繁に開催される。NRW州は、第47条で「少なくとも2ヶ月に1回」の開催を求めており、毎月開催するよう規定している州もある。日本の議会は、ごく少数の例外を除くと、年に4回、会期もそれぞれ数週間と、「常設」ではなく、「時折」開かれているのが通例である。よもやま通信都市では、市議会本会議は年に6~7回だが、市議会の委員会や区評議会も同程度の頻度で開かれるので、夏休み期間を除き、「議会関係の会議がない日の方が少ない」という状況である。

 これまでも何となく感じていたが、議会の権限を定めた法規定を読み、日本とドイツの議会の地位が根本的に違うことが確認できた。議会で決定するドイツの場合、決定のための資料は、事前に全て公表される。市民に関心ある事項では、各党のスポークスマンが事前に考え方を説明し、マスコミも積極的に報道する。だから、ドイツの地方政治は、日本に比べてはるかに透明で、分かりやすい。伏魔殿になる隙間を見つけるのは、困難である。「都政の透明化」にも議会の地位向上が不可欠で、それなしでは小池都政も息切れして、中途半端に終わるのではないだろうか。オリンピック会場問題がその試金石になるかもしれないので、今後も注目していきたい。
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