FC2ブログ

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

政治は動かせたが住民は動かず:バス路線の住民運動

 ドイツの住民運動は日本より盛んで、良く出てくるのが"イニシアティブ"という言葉である。これは、正式の団体登録を行わずに活動している住民グループのことで、いろいろなイニシアティブがある。大きな住民団体も、始まった時は"イニシアティブ"と称していたことも多い。

 イニシアティブは、いろいろな方法で自分たちの主張を認めさせようと行動する。市民の懸案についての決定権は政治が有していることが多いので、政治に働きかけるのが普通である。政治家が考えを変え、要求が受けいれられれば、運動は成功である。ところが、運動によっては、それでは終わらないこともある。ミュルハイムで、それを考えさせる出来事があった。

 ミンタルダ地区は、ミュルハイムの南部、エッセン市との境界近くにある。南北に600m、東西はその半分程度の集落で、約700名が居住している。都心と6km以上離れており、公共交通はバスだけである。以前、路面電車の廃止について紹介したが、公共交通の維持は市財政への負担となっている。そこで、公共交通計画の改定時には、赤字削減が大きなテーマとなる。交通コンサルタントによると、ミュルハイム公共交通計画の問題の一つに、「バスと電車が同じ路線を走っている」ことがある。利用する方にはいいだろうが、二重の路線を維持するには多くの経費がかかる。そこで、2013年末にまとまった新しい公共交通計画は、ミンタルダから都心の中央駅まで走っていたバス路線を廃止し、途中で乗り換えて中央駅へ向かうことで二重性を弱めた。この変更は、2016年に入って実施された。

 ところが、この新計画の実施は、ミンタルダ住民にとって予想しなかった問題を生んだ。バスが遅れ、乗り換えて接続するはずだったバスに間に合わないケースがかなり生じた点である。財政が厳しいミュルハイム市は、同時にバスや電車の運行回数も減らした。このため、バスが遅れると、次の接続まで1時間も待たねばならないことも生じ、学校に遅刻する生徒や、早めに帰宅しなければならない生徒が出て来た。その結果、転校する生徒や、「不便だ」と転居する家族まで出てくる始末であった。

 ミンタルダのイニシアティブは、都心やバスの乗り換え地点でこの窮状を訴え、バス路線改善の署名を集めた。市民の理解と協力で、路線が消えた数ヶ月後に1550名の署名を市長に提出できた。政治家にも働きかけた結果、「公共交通計画を手直しする必要がある」と、ミンタルダの問題に理解を示す議員が増加した。そして、路線廃止から約1年が経過した昨年9月に、妥協案が市議会で決定された。廃止路線の復活ではなく、都心に直行する路線を新設する、という案である。運行は朝と夕方に限られるが、その費用を捻出するために、他の路線を短くする変更も同時に決定された。昨年秋から新路線の運行が始まり、ミンタルダ住民は乗り換えずに中央駅まで行けるようになった。

 住民イニシアティブが政治を動かして対処し、問題が緩和され、これで一巻の終わりになるはずだった。ところが、この新路線は、現在、「廃止の危機」に瀕している。利用状況が余りに悪いのである。新路線が走り始めて少し経過した昨年11月の調査によると、ミンタルダのバス路線乗客は通学する生徒がほとんどで、乗客はどの便でも10名以下しかいない。そして、新設された直行路線にミンタルダで乗り込む乗客は、1日の6便合計でわずか11名、という状況だった。

 確かに「公共交通」では、交通弱者のため、ある程度は採算を度外視してサービスする必要がある。しかし、多数の署名を集めて政治を動かした結果としては、あまりに利用が少なすぎる。直行路線を求めて運動したミンタルダ住民は、政治だけでなく、ミンタルダ住民を動かし、バスを利用するようにしなければならなかった。「住民運動だから、住民は自然に動く」ではない点が、残念である。
関連記事
スポンサーサイト

| 公共交通 | 13:41 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT















非公開コメント

TRACKBACK URL

http://comej.blog76.fc2.com/tb.php/204-1d6063af

TRACKBACK

PREV | PAGE-SELECT | NEXT